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ニュースリリース

2023.04.14

「繁桝 麹蓋プロジェクト」に八女杉を提供。八女流トークイベントvol.1

 

令和4年11月11日(金)、八女市横町町家交流館にて、

持続可能な循環型林業を目指す八女流と素敵なゲストを迎えてお送りするトークイベント「八女流トーク」を開催しました。

 

第一回目のゲストは、地元八女市で地酒を造り続けること300年以上の老舗 高橋商店様と、八女杉による麹蓋づくりをされた関内家具工房様。

今回のトークイベントでは高橋商店様の酒造りと課題、麹蓋製作の裏側、地元八女市への想いについてお話をいただきました。

 

<TOPIC>

・酒造りには欠かせない「麹蓋」を八女杉で作ることになった そのきっかけとは?

・麹蓋の製造過程で見えてきた「道具」としての在り方

・地元八女市に根ざした酒造りを続ける意義

・八女流の仕事

 

 

■登壇者プロフィール

 

 

▲中川拓也氏 株式会社高橋商店 代表取締役(画面中央)

1974年三重県松阪市生まれ、立命館大学理工学部土木工学科卒業。

16年間のゼネコン勤務の後、2014年1月に株式会社高橋商店に入社。2016年1月より19代蔵元として酒蔵を経営する。享保2年(1717年)創業の高橋商店は、初代高橋六郎右衛門が米どころ八女で造り酒屋を開業するところから始まる。その後、9代目高橋竹吉による基礎固めや10代目繁太郎の会社組織への改組など様々な変遷を経て、現在に至る。継承の技を守りさらに研鑽し、皆様から高い評価を得られる酒を造るため日々努力を続けている。

 

▲関内潔氏 関内家具工房(画面 右)

1966年東京生まれ。1994年より木工、家具の製作を始める。

東京、神奈川で顧客と対話を重ねる注文家具の製作を行う。2004年八女市に移住。より木材の産地の近くで丸太製材により関わる木工へ。近年は建築家の依頼による住宅などの造作家具を手掛けている。

 

▲ファシリテーター

沖雅之 株式会社八女流 代表取締役(画面 左)

1975年北海道厚岸町生まれ。釧路工業高等専門学校情報工学科卒。

システムエンジニアとして東京都内で22年間働いた後、全国で林業を起点とした持続可能な地域づくりに取り組むトビムシに転職し、八女市と山口県萩市のプロジェクトを担当。2017年八女市に移住。八女杉のブランド化に取り組み、上陽町で移住者向け賃貸住宅「里山ながや・星野川」や八女流の設立に携わり、運営している。

 

 

■酒造りには欠かせない「麹蓋」を八女杉で作ることになった、そのきっかけとは?

 

 

株式会社高橋商店 代表取締役 中川拓也氏(以下、中川さん):
今回のプロジェクトの後押しとなった出来事はコロナ禍ではありますが、それより前に、酒造業界が抱えていた課題に触れる必要があります。 

 

酒造業界は、長年「杜氏が経験と勘で酒造りをし、蔵元が商いをする」という価値観が続いてきました。酒造りがわかるのは杜氏だけなので「杜氏が変わるとお酒の味も変わる」ことがどこの蔵でも起こっていたのです。

 

そのような価値観が主流の時代に、先代の蔵元は東京農業大学の醸造科で「酒造りの理論」を勉強して24歳で八女に戻ってきました。

また、当時はお酒の品質より大量生産が求められていた時代でしたが、先代は「せっかくお酒の勉強をしてきたのだから良いお酒を造りたい」と、当時の考え方としては珍しく早い段階から品質重視の酒造りに取り組んでいます。

 

その努力が功を奏し、まだ全国的に「日本酒は寒い地域のものが美味しい」と言われていた時代の平成2年、「繁桝 箱入娘」は九州で初めて日本航空(JAL)国際線ファーストクラスの機内酒に採用され、世界にはばたくことになりました。

 

▲来場者にはお土産として、八女杉の麹蓋で育った麹で醸された大吟醸酒「繁桝 箱入娘」が振る舞われた

 

さて、時代は令和に移り、酒造業界全体を見渡してみると、かつての先代がそうであったように「蔵元の息子が酒造りの理論を勉強して杜氏をする」という蔵元が増えてきています。

 

理論を学んだことで、これまで経験と勘に頼ってきた作業の仕組みや工程の答え合わせができるようになりました。酒造りをマニュアル化することで、「杜氏が変わるとお酒の味も変わる」という課題解決や、コロナ禍による急な欠員で酒造りを中断せざるを得ないといったリスク対策に繋がると考えました。

 

しかし、実際にマニュアル化する過程で、定量化が難しく、経験と勘に頼らざるを得ない部分がありました。それが「麹造り」です。

 

裏を返せば、麹造りへの理解を突き詰めこだわり抜くことで、蔵の個性をより際立たせることができます。そこで、私たちは麹造りに欠かせない道具-「麹蓋」という麹造りの原点に立ち返ったのです。

 

 

■麹蓋の製造過程で見えてきた「道具」としての在り方

 

 

以前から、八女流の仕事にご興味を持たれていたという中川さん。

蓋麹法による麹造りを始めるにあたり八女杉による修復、新たな麹蓋の製作に取り組むことになり、当社にご依頼をくださいました。

 

八女林業の6次産業化を推進する当社としてもぜひ実現したい案件。

材料の提供だけでなく、八女の木工職人様と連携し、「麹蓋」をプロダクト製作で納品させていただきたいと考えました。

 

早速、「八女杉の麹蓋」を形にするべく八女の木工工房、関内家具工房の関内さんにお声がけをしました。関内さんは、この時初めて「麹蓋」を聞いたと言います。

 

 

関内家具工房 関内潔氏(以下、関内さん):

「麹蓋って何だろう?」というところから始まりました。

以前から麹を使った醤油や味噌、日本酒造りに興味がありましたが、まさか仕事で関わることはないだろうと思っていたんです。「麹蓋」が日本酒造りに置いて欠かせない道具だと知り「そればぜひ作ってみたい!」と思いご依頼を引き受けました。

 

 

麹蓋は初めて見聞きする道具でしたが、高橋商店様に使い方のご説明をいただいたり、これまで使われていた麹蓋を分解しながら道具そのものへの理解を深めていきました。

 

関内氏:
麹蓋は重ねて使う物なので、空気の通り道を確保するために底板に隙間を作ります。

しかしその隙間が大きすぎると、乾燥した麹室では木の底板が収縮して隙間からお米が落ちてしまうのです。木の収縮度を考慮すると、ある程度の幹の太さがあり木目が詰まった木材が必要ですが、そのような木材は九州ではなかなか採れません。

 

木材の調達に関しては、八女流さんが尽力してくださいました。杉の競売で、麹蓋にふさわしい木目の詰まった立派な八女杉を競り落とし、調達してくださったのです。

 

 

麹蓋はとても激しく使われる道具です。

時間との勝負の中、木にこびりついた麹菌を手早く剥がすために衝撃を与えたり、熱湯に浸けて洗ったり、次の日までに乾かすために天日干しにもします。木にとって、とても過酷な環境です。

 

関内さん:

麹蓋を理解する過程で得た一番大きな気付きは、麹蓋の底板に「釘」が使われていたことです。

 

麹蓋を手に取った当初は「底板を作るだけならさまざまな方法があるのに、なぜ釘が使われているのだろう」と疑問に思いましたが、製作を進めていくうちに答えにたどり着きました。

それは、木工に携わる人間として「道具は使う人が自分で作るものだ」という背景を思い出したからです。どういうことかと言うと、例えば、木工職人の鉋は使う本人が扱いやすいようにカスタマイズするので、同じ鉋でも職人一人ひとりに微妙な違いがあります。使い手の用途に合わせて、道具もその形を変えていくのです。

 

麹蓋に釘が使われていた理由も、きっと蔵人の方々が自分で修理や交換しやすい形に設計されていたのでしょう。

伝統的なものの中に見える蔵人達と道具の在り様が大変面白くて、この伝統を大切にしたいと思いました。今回の製作においてもその在り方を変えてはいけないと思い、底板に釘を用いて製作しています。

 

 

中川さん:

以前の麹蓋には無かったもので、今回、温度計を入れるための5mm程度の溝を作っていただき、麹蓋の一つひとつにQRコードを貼り付けました。ここで麹蓋の温度変化を記録し、麹蓋の温度を均一にするために行う積み替え工程をデータとして集積できるように設計しました。QRコードを読み取ることで、その履歴を確認できる仕組みです。

 

これによりパソコン画面で各箱の温度を確認でき、誰もが迷うことなく、的確な位置に麹蓋の移動ができます。温度の見える化によって、ムラなく一定の麹菌の繁殖が期待できるようになりました。

 

さらに、蔵元として安定した技術が継承でき、変わらない「味」と「香り」を後世に残すことができます。これまで経験と勘に頼った酒造りをしていただけに、蔵は変化を恐れる傾向がありましたが、安定した味と香りを再現できるようになったことで新しい酒造りにも意欲的に挑戦できる土台ができました。

 

また、昔は麹蓋を管理するために一人の人間が泊まり込みで夜通し作業していましたが、データを記録することで引き継ぎが可能になり、一人に任せた無理な勤務をする必要がなくなりました。働き方改革の視点から見ても、酒造りに大変貢献してくれています。

 

 

■地元八女市に根ざした酒造りを続ける意義とは

 

 

中川さん:

お酒は蔵が造るものではなく「地元のお客様方に造ってもらっている」という感覚でいます。なぜなら、私たちの商売は地元に根付いたものだからです。

 

インターネットの普及で全国の方に繁桝のお酒をお楽しみいただけるようになりましたが、それぞれの土地柄でお食事が違うので、繁桝のお酒が料理に合う・合わないといったバラバラのご意見が寄せられます。

 

しかし、私たちは常に地元のお客様から味のフィードバックをいただいてきたおかげで、自然とこの土地のお食事に合うお酒の味になりました。私たちの酒造りの原点は、地元の方々の声を聞き、地元の方々に好まれるお酒を造り続けてきたところにあります。

 

今回、麹蓋の材料を八女杉にこだわったのも「地元に根付いた酒造りをしていきたい」という想いが根底にあったからです。

古くからものづくりの町として栄えてきた八女は、和紙や提灯、仏壇といったこだわりの職人が手がける伝統工芸が息づく町です。これからも、八女に根付くクラフトマンシップを酒造りに取り込みながら、繁桝らしさとして表現していきたいと考えています。

 

 

関内さん:

私は八女杉と向き合ってみて、ますます杉の面白さに気づくことができました。

同じ寸法で同じ商品を作っても、杉の素材が違うと仕上がりが全く異なります。こういった仕事を通して教わることがたくさんありますね。どの材が良いかは一口で言えることではありませんが、地元の良い素材を適材適所で使えていけたらいいなと思います。

 

 

■八女流の仕事

 

 

「繁桝 麹蓋プロジェクト」では、八女流は材料の提供だけでなく、地元の職人様と連携することでプロダクト製作で納品させていただきました。

 

八女杉は木目が美しく、年輪が詰まって赤身が多く、そのうえ硬くて強度が強く、曲がりも少ないことが特徴です。麹蓋の素材として適した木材をお届けできたかと思います。

 

トークイベント当日は、平日夜間の開催にも関わらず市内外の方々にお越しいただき、みなさん大変興味深いご様子で登壇者のお話に耳を傾け、実物の麹蓋をご覧になったり、香りを嗅いでみたりしていらっしゃいました。

 

来場者の方々には、ぜひこの機会に八女杉の麹蓋で育った麹で醸された日本酒をお味見いただきたいと思い、大吟醸酒「繁桝 箱入娘」をお土産にお持ち帰りいただきました。

華やかな香りとすっきりとした味わいで、料理を引き立てつつもお酒の主張は無くさず、ひと口、またひと口と進む、素敵な日本酒です。

 

 

盛況を収めた第一回「八女流トーク」。

私たち八女流は、八女市ならではの循環型林業モデルの構築のため、

これからも地域の木材×職人の掛け合わせや、筑後・福岡地区を中心とした八女杉の流通促進を通して、まちの人と森のつながりを増やしていきたいと考えています。